リレーエッセイ

私と漢方との出会い

私と漢方との出会い

リレーエッセイ | 第8号投稿記事(2023年6月)  柴原 直利 先生

私と漢方との出会い

柴原 直利

日本漢方医学教育振興財団 理事
富山大学和漢医薬学総合研究所
和漢医薬教育研修センター 教授

 私自身は小児期から大学入学に至るまで漢方治療を経験したことはなく、漢方薬に接する機会はなかったと思います。大学受験の際でも現在のように様々な情報が入るわけではなく、特に漢方医学に興味があったという理由ではなく、受験科目が自分に合っていたので富山医科薬科大学医学部を受験しました。入学した際には漢方医学を特徴の一つとする大学であるという認識はありませんでした。
 入学後、大学1年次の薬学部との共通科目として受けた難波恒夫先生の講義で薬用植物との最初の出会いがあり、そこで様々な生薬が治療に用いられているという知識を得ました。2年次と3年次は関わりなく過ぎましたが、4年次になって寺澤捷年先生が担当する和漢診療学を必須講義として受講し、漢方医学的病態認識などに接したことが大きかった。さらに、5年次には病院実習において附属病院和漢診療部で漢方治療の実際に接することとなり、私の中では臨床の一つとして漢方治療があることは当然のことと考えるようになった。
 卒業後の入局先の決定に影響したのは、5年次から6年次にかけて和漢診療部で行ったアルバイトでした。このアルバイトで日本漢方医学教育振興財団の常務理事であり、福島県立医科大学会津医療センターの教授である三潴忠道先生のお世話になり、学生ながら臨床研究などに関わることになりました。そのような人間関係もあり、卒業後は富山医科薬科大学和漢診療部(現在の富山大学和漢診療学講座)に入局して漢方医学の研修に励むことになりました。1年後に茨城県の鹿島労災病院に赴任して内科を研修したが、移動前に前述の三潴忠道先生から「内科研修中は漢方薬を使用せず、内科研修だけに励むように」と言われ、実際に風邪に対しても漢方薬を使用しませんでした。この研修で他大学出身の同期生と話をしている際に、大学での講義などについて話す機会があり、すべての大学医学部では同じような講義がなされていると思っていたが、漢方医学は、ほとんどの大学医学部では講義されていないということがわかりました。その後、3年間の内科研修を終えて富山へ戻り、改めて漢方医学の研修に励むことにしました。

 このような出会いを経て、私は医学部を卒業して37年間、漢方医学を専門として医療に携わってきました。また、この20年ほどは薬学部を中心に漢方医学の教育を担当してきました。現在、医学、薬学、歯学、看護学の医療系学部のモデル・コア・カリキュラムには漢方医学が組み込まれています。臨床として成立してきた漢方医学が、これから更に臨床現場で活用されるためには、漢方医学の教育が重要であり、財団の一員として役立つように努力したいと考えています。